「ソーシャルレンディングはハイリスク・ローリターン」は本当か?
近年、資産運用の選択肢のひとつとして「ソーシャルレンディング」が注目を集めています。
ソーシャルレンディングとは、クラウドファンディングの仕組みを活用してネット上から集めた資金を中小企業に融資する仕組みです。
投資家にとっては少額から高利回り案件に投資できるうえ、基本的に運用期間中は投資元本の価格変動がないことから、手軽に手を出せるというメリットがあります。
しかし一方で、ソーシャルレンディングは「ハイリスク・ローリターン」の投資であり「割に合わない」という評価を受けることもあります。
ソーシャルレンディングの本当の姿はどちらなのでしょうか?
この記事は、銀行での融資・債券回収業務などを経て現在は金融ライターとして活動している筆者の視点で、ソーシャルレンディングとの向き合い方について述べるコラム記事です。
ソーシャルレンディングの案件を見極める際のポイントについても触れていますので、考え方の一つとしてぜひ参考にしてみてください。
目次
ソーシャルレンディングが「割に合わない」と言われる理由
ソーシャルレンディングが「ハイリスク・ローリターン」で「割に合わない」と言われる際の主な理由としては、次のような点が挙げられます。
「割に合わない」と言われる主な理由
- リターンの伸び幅が期待できない
- リスクを投資家に転嫁している構図
- 投資先の貸し倒れリスクが高い
それぞれの内容について、いったん順に見ていきましょう。
リターンの伸び幅が期待できない
一般的に、ソーシャルレンディングは融資を小口化した商品です。
そのため配当金は融資先からの利息の支払いによるものであり、その水準は融資実行時にあらかじめ決められた条件から上振れることはありません。
また、元金の返済額も融資された金額から増えることはありません。つまり基本的にソーシャルレンディングは投資リターンが当初予定から上振れることはないのです。
株式投資であれば、企業が大儲けすれば配当金が増える可能性がありますし、株価の上昇で譲渡益を得られる可能性もあります。理論上、伸び幅は無限とも言えるでしょう。
一方でリスクについては、ソーシャルレンディングも株式も、もし投資先が経営破綻してしまうと最悪の場合は1円も戻ってこない可能性がある点では同じように見えます。
リターンは伸びないのにリスクは最悪100%という点が、「ソーシャルレンディングはハイリスク・ローリターン」という論拠の一つとされています。
リスクを投資家に転嫁している構図
通常、銀行などの金融機関が融資を行う際には、貸したお金が返ってこないリスクを想定します。
基本的に銀行が融資に使う資金は預金者から預かったお金ですが、仮に融資が貸し倒れてしまったとしても、銀行が預金者へお金を返さなくてよいわけではありません。
融資で損を出した場合は、銀行自身のサイフから身銭を切ることになるのです。
そのため、銀行は融資先の財務状況や信用を真剣に見極めようとしますし、基本的に大丈夫だと安心できる相手にしか融資しません。
しかし、ソーシャルレンディング業者の場合は、投資家から集めた出資金を資金需要者に貸し付ける仲介をしているのに過ぎません。
もし融資が貸し倒れたとしても、基本的にはソーシャルレンディング業者は身銭を切る必要はないのです。
こうした構図から、「貸し倒れても自分は損をしない融資を、はたして真剣に審査するだろうか?」という疑念が生じているのでしょう。
投資先の貸し倒れリスクが高い
ソーシャルレンディングの案件は貸し倒れリスクが高いという意見も、よく聞かれます。
通常、資金需要者はできるだけ金利の安い金融機関からお金を借りたいものですから、銀行から安い金利で融資してもらえるのならソーシャルレンディングを通じて資金調達をする必要はありません。
しかし、前述したように銀行は安心できる相手にしか融資しません。
そのため、銀行に融資してもらえない案件がソーシャルレンディングに流れてくる傾向が生まれ、「貸し倒れリスクが高い」という意見に繋がっているのでしょう。
仕組みを理解すればソーシャルレンディングの本当のメリットが見えてくる
ソーシャルレンディングが「ハイリスク・ローリターン」で「割に合わない」と言われる理由について紹介しました。
どれももっともな話ではありますが、一方で筆者からは「でもそれは、当たり前のことでは?」という印象も否めません。
どのような金融商品の特徴にも表と裏があるものです。ソーシャルレンディングの仕組みを考えれば、デメリットにはそれに相応するメリットがあることが見えてきます。
ここではその主な3点についてご紹介します。
デメリットに対応するメリット3点
- 安定したインカムゲインが期待できる
- 万が一の破綻時、債権者は株主よりも優先される
- 究極の小口化で誰でも「融資する側」になれる
安定したインカムゲインが期待できる
先ほど、ソーシャルレンディングは「株式投資と比べてリターンは伸びないのに、リスクは最悪100%という点は同じ」だと述べました。
これは実際にその通りではあるのですが、期待できるリターンの安定性という観点が抜けています。
株式投資の場合、配当金を出すか出さないかは企業の自由です。配当収入目当てで高配当株を購入したとしても、実際には企業の経営方針に応じて減配されたり配当をやめられてしまう場合もあります。
一方でソーシャルレンディングの場合は金利の支払いは融資を受けた側の義務です。基本的に事業が致命的に失敗しない限りは、利払いは行われると期待できるでしょう。
つまり、伸び幅が少ない分、安定性は増していると捉えることができるのです。
万が一の破綻時、債権者は株主よりも優先される
また「リスクは最悪100%」という点についても、厳密には株式投資とソーシャルレンディングで異なります。
会社が倒産してしまった場合、会社に残された資産が売却されて利害関係者に分配されます。これを清算といいますが、この際の優先順位は株主よりも債権者の方が上です。
基本的には、未払いの税金や従業員に対する給料などが最初に差し引かれ、その後に借入金の元金や売掛金などの返済が行われ、さらに後に利息などの支払いが行われ、最後に残った分が株主に分配されるという順序です。
倒産するほど財務状況が悪いわけですから、全員が満足のいく分配を受けられる可能性は極めて低く、その損失は株主から順に負っていくことになります。
ソーシャルレンディングを通じて融資された資金は、株式投資よりも帰ってくる可能性が高いことが期待できるのです。
究極の小口化で誰でも「融資する側」になれる
さて、ここまで読んでいただくと「それは融資の特徴を語っているだけであって、ソーシャルレンディングの特徴ではないのでは?」と思われるかもしれません。
実際にその通りです。
利払いによる安定したインカムゲインが欲しくて、さらに株主よりも優先的に守ってほしいということであれば、社債を購入するという手段でも実現できます。
立派な証券会社を通じて、大企業の社債を購入する方がよっぽど安心と思えることでしょう。
しかし、社債は大企業から機関投資家向けに発行されることが多く、最低購入単位は1億円程度になることが一般的です。
個人投資家向けに小口化されている場合も、最低100万円程度は必要になります。
一方でソーシャルレンディングの多くは1万円程度から投資することが可能です。
融資案件を極めて小口化することで、誰でも「融資する側」になれるようしたのがソーシャルレンディングの最大のメリットと言ってもよいでしょう。
ソーシャルレンディング業者はそのためのプラットフォームを提供しているのであり、最終的な投資判断はあくまでも投資家自身が行うものです。
そう考えれば、ソーシャルレンディング投資の位置づけが見えてくるのではないでしょうか。
それでも注意すべきソーシャルレンディングの注意点
誰でも「融資する側」になれるソーシャルレンディングですが、注意しなければならない点があります。
ソーシャルレンディングの注意点
- ノンリコース(責任財産限定特約)の案件は要注意!
- 担保物件は現金化できなければ意味がない!
- ソーシャルレンディング事業者自体の信用に注意!
それぞれ見ていきましょう。
ノンリコース(責任財産限定特約)の案件は要注意!
融資の世界には、ノンリコースローンと呼ばれる方法があります。
日本語では責任財産限定特約付貸付融資と呼ばれ、読んで字のごとく、融資の返済にあたって特定の範囲までしか責任を負わなくてよいという融資です。
通常の融資の場合、不動産Aを担保に1000万円の融資を行って返済が滞ったとき、銀行は担保物件を処分することで融資の回収を図ります。
もし担保物件が600万円にしかならなかったとしたら、残り400万円の返済義務が借り手に残ることになります。
しかし、ノンリコースローンの場合は設定した担保のみに責任が限定されるため、銀行は担保価格の600万円分しか回収できません。
このように貸し手に不利な条件のため、銀行はノンリコースローンの審査を厳しくしたり、金利を高く設定したりするのです。
さて、注意すべきは、一部のソーシャルレンディング業者もこのノンリコースローンを導入しているという点です。
ノンリコースローンで案件を作ることで、表面的には利回りが良い案件に見えます。しかし当然、返済責任が限定されているわけですから元本割れのリスクが高くなります。
このことを知らずに投資してしまうと、「思っていたのと違った!」ということになりかねません。
投資しようとしている案件がノンリコースローンではないか(責任財産限定特約がついていないか)、説明文や契約書を見てしっかりと確認するようにしましょう。
担保物件は現金化できなければ意味がない!
ソーシャルレンディング投資をより安全なものにするためには、担保や保証がしっかりしている案件を選ぶことが重要です。
しかし、担保があれば何でもよいのかというと、そうでもありません。
担保物件はいざという時に現金化できるものでなければあまり意味がありません。
都市部の商業ビルや住宅なのか、それとも地方の山奥の土地なのかによって、売却時の買い手の付きやすさに違いがでることは言うまでもないでしょう。
案件の担保物件をプロのように正確に評価するのは難しいことですが、せめて感覚的にだけでも「この担保、いざってときに本当に売れそう?」という観点を持つことで、投資の安全性を見分ける一助となることでしょう。
ソーシャルレンディング事業者自体の信用に注意!
前述したように、ソーシャルレンディングのリスクは投資家が負うため、ソーシャルレンディング業者は貸し倒れが発生しても自分のサイフは痛みません。
そのため、「質が悪い案件でも数多く組成した方が儲かる」と考える業者がいる可能性は否定できないことを、投資家は念頭に置いておく必要があります。
とはいえ、ソーシャルレンディング業者には善管注意義務を負っており、融資先への審査や投資家への情報開示を適切に行う義務があります。
こうした義務を怠ると法的な責任を負うだけでなく、企業の評判が悪化することによるレピテーショナルリスクも負うことになります。
特に運営母体がソーシャルレンディング以外の事業も広く行っているほど、企業イメージ悪化のダメージは大きくなることでしょう。
ソーシャルレンディングの運営母体や出資者が大企業グループであるか、その他の事業も多数展開しているかなど、業者のバックボーンを調べることで信用性を見極める工夫をすると良いでしょう。
小口投資ならメリット大!質の良い業者・案件を見極めて活用しよう
このコラムをまとめると、次のようになります。
この記事のまとめ
- ソーシャルレンディングには「融資」だからこその安定性がある
- 究極の小口化で誰でも「融資する側」になれることがメリット
- 責任限定特約や質の悪い担保には注意!
ソーシャルレンディングは、融資案件が小口化されているところに大きな特徴があります。
もしあなたが数百万円単位以上の多額の投資を行いたい大口投資家なら、ソーシャルレンディングを利用するメリットはあまりないかもしれません。
しかし、自分なりのポートフォリオを組成する中で小口資金の一部を安定的なインカムゲインに割り振りたいなら、ソーシャルレンディングは有効な選択肢となり得るでしょう。
筆者自身も、ソーシャルレンディング投資を行っていくうえで、引き続きリスクと正しく向き合いながら、質の良い業者と案件を探していきたいものです。
銀行員として融資・債権回収業務などを経て、現在は金融関係のWebライターとして活動中です。株式投資から仮想通貨まで、身近な投資や資産運用に関する金融知識をわかりやすくお伝えことを心掛けています。